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東京高等裁判所 昭和55年(ラ)1086号 決定

抗告人

株式会社日光重機

右代表者

佐々木喜多男

右代理人

佐々木黎二

猪山雄治

松井宣彦

相原英俊

更生会社日光コンクリートブロック株式会社更生管財人

相手方

羽石大

主文

原決定を取消す。

本件を宇都宮地方裁判所に差戻す。

理由

一抗告人は「原決定を取消す。本件更生手続を廃止する。」との決定を求め、抗告理由を別紙のとおり主張した。

二1  よつて、まず抗告理由第一について検討するに、本件記録によれば、別紙目録記載の各土地は、更生会社が昭和四七年中に有償取得したものであつて、更生会社は、その取得費及びその後における宅地造成費として、すでに五八四五万九七四三円を投下したものであるが、右各土地につきその所有名義人を更生会社の取締役久保義正とする所有権取得登記(但し、別紙目録記載の1の土地については、その後昭和五一年一一月一七日から昭和五一年一二月一八日にかけて、その持分一四分の三を栗原幸夫ほか二名に移転する登記を経由し、本件更生手続開始時における持分は一四分の一一であつた。)が経由されていたところ、本件更生手続開始から昭和五五年一〇月一日まで本件の更生管財人であつた田村三郎(以下、単に「更生管財人」という。)は、昭和五三年八月三日別紙目録記載の土地のうち、1及び15ないし18の各土地をのぞく一九筆の土地につき、久保義正を被告とし、更生会社のため真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続を求める訴を提起するについて原裁判所の許可を受け、その間の経過は記録上明らかではないが、結局別紙目録記載の1の土地については、宇都宮地方法務局今市出張所(以下「法務局」という。)昭和五三年一一月一三日受付第一四三四九号による更生会社のための真正な登記名義回復を原因とする所有権移転登記が、また別紙目録記載の2ないし24の各土地については、法務局昭和五三年一一月八日受付第一四一二九号をもつて右と同様の所有権移転登記が、それぞれ経由されるにいたつたこと。

2(一)  本件更生手続開始当時、別紙目録記載の3ないし5、7ないし12、及び19ないし24の各土地については法務局昭和五一年一一月四日受付第一四三九一号をもつて、極度額二五〇〇万円、債務者・更生会社、根抵当権者・株式会社栃木相互銀行とする根抵当権設定登記が経由され、同銀行は原裁判所に対し、本件更生開始決定において定められた更生債権及び更生担保権の届出期間内に右の根抵当権ほか一件の根抵当権に基づき更生担保権(債権額二三七八万〇二四一円)の届出をしたこと。

(二)(1)  別紙目録記載の1ないし15の土地については、法務局昭和五二年八月二五日受付第一〇七四一号をもつて、権利者をスプリットン工業株式会社とする仮差押登記が、

(2)  別紙目録記載の3ないし5、7ないし12、17、19ないし24の各土地については、法務局昭和五二年八月三〇日受付第一〇九〇三号をもつて、権利者を大日光信用組合とする仮差押登記が、

(3)  別紙目録記載の2ないし13、17、19ないし24の各土地については、法務局昭和五二年九月六日受付第一一三〇四号をもつて、権利者を株式会社足利銀行とする仮差押登記が、

(4)  別紙目録記載の2ないし15、17ないし24の各土地については、法務局昭和五二年一〇月一三日受付第一三〇〇〇号をもつて、権利者大日光信用組合とする仮差押登記が、

それぞれ経由されていたこと。

3  更生管財人は、昭和五四年五月に前項の根抵当権者株式会社栃木相互銀行及び仮登記権利者であるスプリットン工業株式会社、大日光信用組合及び株式会社足利銀行との間において、別紙目録記載の各土地を代金合計三五〇〇万円をもつて他に売却し、更生会社は、この代金のうち七七五万一五三二円を取得する旨の合意を成立させたが、右の代金三五〇〇万円から更生会社の取得分を控除した残金二七二四万八四六八円がどのように処分されたかは本件記録上全く不明であるのみならず、更生管財人がその後昭和五四年六月(日付並びに原裁判所の受理日付は不明)に原裁判所に提出した中間報告書には、別紙目録記載の各土地については、株式会社栃木相互銀行が中心となり現在処理方法を検討中と記載されているにとどまること。

4  その後更生管財人は、昭和五五年二月二〇日原裁判所に対し、別紙目録記載の各土地の平方メートル当りの適正価額が二万四一七一円であるとする株式会社栃木相互銀行日光支店長作成名義の上申書を添付した別紙目録記載の土地の全部を代金三五〇〇万円をもつて加藤商事株式会社に売却することの許可を求める申請書を提出し、同月二一日原裁判所から右申請どおりの売却処分を許可する旨の決定を受けたこと及び前2項(一)の根抵当権については、法務局昭和五五年四月一四日受付第四五五七号をもつて、昭和五五年二月二〇日解除を原因とする根抵当権抹消登記が、2項(二)、(1)の仮差押については、法務局昭和五五年二月二三日受付第一二三六号をもつて、昭和五五年二月二一日取下を原因とする仮差押登記抹消登記が、2項(二)、(2)の仮差押については、法務局昭和五五年三月一三日受付第三一五五四号をもつて、昭和五五年三月七日取消を原因とする仮差押登記抹消登記が、2項(二)、(3)の仮差押登記については、法務局昭和五五年三月二六日受付第三二七六一号をもつて、昭和五五年三月一一日取消を原因とする仮差押登記抹消登記が、2項(二)、(4)の仮差押登記については、法務局昭和五五年三月一三日受付第三一五五号をもつて、昭和五五年三月七日取消を原因とする仮差押登記抹消登記が、それぞれ経由されたほか、別紙目録記載の1の土地については、法務局昭和五五年四月一四日受付第四五五九号をもつて、同目録記載の2ないし24の土地については、法務局同日受付第四五五八号をもつて、それぞれ昭和五五年三月三日売買を原因とする加藤商事株式会社に対する更生会社の持分移転登記又は所有権移転登記が経由されていること。

5  株式会社栃木相互銀行は、2項(一)において認定した更生担保権の届出の全部を昭和五五年四月一八日取下げたこと。

以上の事実が認められるけれども、更生管財人が昭和五五年八月一日原裁判所の許可を得た更生計画修正案(以下「更生計画案」という。)添付の本件更生手続開始時である昭和五三年六月二九日現在の更生会社の貸借対照表及び昭和五四年一二月三一日現在の更生会社の貸借対照表には、前記のように別紙目録記載の土地全部を加藤商事株式会社に売却処分した代金三五〇〇万円中更生会社の取得分に見合うものとして、それぞれ、その資産の部、固定資産・有形固定資産の項目中に、単に「土地」として七七五万一五三二円が計上されているにとどまり、前記認定の別紙目録記載の土地の処分についてはもとより、この処分代金中更生会社の取得分以外の二七二四万八四六八円の使途については何ら触れられているところがないことは、更生計画案の記載自体によつて明らかであるし、右二七二四万八四六八円の処分について原裁判所の許可を得た事蹟も本件記録上は見当らない。

判旨三以上の事実関係によれば、更生管財人がした別紙目録記載の土地の処分は、それが原裁判所の許可を得たものではあるが右各土地の売却代金三五〇〇万円中の二七二四万八四六八円の全部又はその大部分が更生担保権者である株式会社栃木相互銀行の更生債権並びに仮差押債権者であるスプリットン工業株式会社、大日光信用組合及び株式会社足利銀行の久保義正に対する債権の弁済に充てられたものであることを推認するに難くないところであり、このうち、株式会社栃木相互銀行に対する弁済が、すでに開始された本件更生手続を潜脱するものとして会社更生法一一二条の規定に違反するものであることはいうまでもないところであるし、また前記の仮差押債権者らに対する関係については、更生管財人は、右の仮差押債権者らを被告として第三者異議の訴を提起して、これらの仮差押を排除すれば足りるのであつて、これらの債権者に対して弁済すべき必要は、さらになかつたのであるから、これらの弁済はもとより、前記の株式会社栃木相互銀行に対する弁済が更生管財人に課せられた善管注意義務に悖るものとして会社更生法九八条の四の規定に違反するものであることは他言を要しない。更に前記のように別紙目録記載の土地の処分経過、代金の使途につき、これを更生計画案に明示しなかつたことは、これに対する他の更生債権者の批判、検討の機会を奪つたことにほかならないのであるから、更生計画案自体も、この点において著しく不公正であり、衡平を欠くものであつたとするほかない。

それ故本件更生計画案は、すでに以上の点において、会社更生法二三三条一項一、二号の規定に適合しないものであつて、更生計画案をそのまま認可した原決定は違法であり、本件抗告は理由があるが、本件については、前記の更生手続における違法を是正し、更正計画案を修正することによつて、その更生計画案を認可することができるかどうかにつき更に審理をつくさせる必要がある。

四よつて、その他の抗告理由に対する判断を省略し、原決定を取消し、本件を原裁判所に差戻すこととし、主文のとおり決定する。

(廣木重喜 寺澤光子 原島克己)

【抗告理由】

第一、法律規定違背

一、会社更生法第五四条一号、同九八条の四、及び同一一二条違背

1 別紙物件目録記載の不動産(以下本件不動産という)は、会社更生手続開始決定時である昭和五三年六月二九日当時においては、所有者が本更生会社の専務取締役であつた久保義正である。また右時期までにおいて、本件不動産には、本更生会社を債務者株式会社栃木相互銀行を根抵当権者とする極度額金二、五〇〇万円の根抵当権が設定され、更に、右久保義正を債務者として、スプリットン工業株式会社、大日光信用組合及び株式会社足利銀行を各債権者とする各仮差押登記が存していた。

その後、本件不動産は、管財人の訴提起に基づき真実の所有者が本更生会社であることが判決により確定され、昭和五三年一一月八日、登記原因を真正な登記名義の回復となし、所有権の移転登記が為された。

右判決により、既に存していた右久保を設定者若しくは債務者とする根抵当権及び仮差押の法的効力は、特別な事情がない限り、処分権のないものの設定、若しくは第三者の物の仮差押となり、最初から無効となるものであつた。

2 ところが、本件不動産は、更生管財人が、昭和五五年二月二一日金三、五〇〇万円の価格での売却の許可を裁判所から得て、加藤商事株式会社に売却し、右売却代金は、本更生会社が金七、七五一、五三二円を取得し、右根抵当権者兼更生債権者である株式会社栃木相互銀行、仮差押債権者(久保義正の債権者)スプリットン工業株式会社、同大日光信用組合及び同株式会社足利銀行に残余の売却代金が支払われた(財産評定書の本件土地に関する記載、更生計画案添付の貸借対照表の土地に関する記載を参照)。

3 会社更生法第五四条一号違背

(一) 管財人は、昭和五五年二月二一日、本件不動産を金三、五〇〇万円で処分することについて、裁判所の許可を得ているのであるから、右売却代金三五〇〇万円を会社の資産として確保すべきである。

ところが、管財人は、更生会社とは関係のない者(前所有名義人久保義一)の債権者ら及び処分権限のない者(前所有名義人久保義正)の設定した根抵当権者に、和解契約により、右売却代金の五分の四を、処分した。

裁判所は、更生手続開始決定において、会社財産の処分を裁判所の許可を要する行為に指定しているから、管財人の右行為は、不動産売却代金の処分にあたり、会社更生法第五四条一号に違背する。

(二) また、本件不動産の売却と仮差押債権者ら及び根抵当権者との和解契約とは、仮差押及び根抵当権設定の登記の抹消登記日が裁判所の財産処分の許可日以後でしかも接近していること、右登記の抹消後に買受人への所有権移転登記が為されていること等から、一体不可分のものであつた。

ところで、会社更生法第五四条一号において会社財産の処分が、同法第九八条の三による裁判所による一般的な監督とは別に規定されたのは、会社財産の処分が不当に為されると更生会社の資産が減少し、その影響が更生手続の成否にとつて重要であるため、事前に裁判所の監督に服さして適正に財産処分が為されるようにするためである。

右の趣旨からするなら、裁判所に許可を求めるにあたつての財産の処分の価格は、売却行為と和解とに分断して考えるべきでなく、右処分により更生会社が実際上取得しうる金額をその価格とするべきである。

本件不動産の売却によつて、本更生会社が取得しうる額は、金七、七五一、五三二円であるから、裁判所による許可は、金七、七五一、五三二円での処分として許可を得べきである。

管財人は、金七、七五一、五三二円での本件不動産の処分の許可を得ていないのであるから、管財人の本件不動産の売却は、会社更生法第五四条一号違背である。

4 会社更生法第一一二条違背

仮りに、本件不動産の売却処分について法規違反がないとしても、管財人の行為は会社更生法第一一二条に違背するものである。

即ち、本件不動産の売却処分によつて管財人は金三、五〇〇万円を取得し、右取得代金をもつて、直ちに本件土地の根抵当権者である株式会社栃木相互銀行に対し和解契約の履行として弁済を為し、本件不動産に対する根抵当権設定登記を昭和五五年四月一日抹消している。

株式会社栃木相互銀行の有する根抵当権の被担保債権の債務者は本更生会社であり、右弁済がなされた債権はすべて会社更生開始決定前に発生したものであるから、右銀行の債権は更生債権となるものである。従つて、更生管財人は、更生計画に基づいて右銀行の債権を弁済しなければならない筈である。

ところが、管財人は、本件不動産の売却代金をもつて直ちに更生計画に基づかないで弁済している。これは会社更生法第一一二条に違背するものである。

5 会社更生法第九八条の四違背

(一) 管財人が提出した財産評定書の本件不動産に関する記載によれば、更生会社が本件不動産を取得した費用及び宅地造成費用の合計は金五六、四五九、七四三円となつている。

また、更生計画案添付の昭和五五年一二月三一日現在の貸借対照表によれば、当座資産として現金一〇九、〇八〇、〇四一円、受取手形金一四、六三三、〇七一円、売掛金七六、六三八、九五三円と表示されている。

右当座資産の状態からは、本更生会社においては、昭和五五年二月二〇日当時において、運転資金が枯渇するということは考えられない。

不動産は少くとも年五パーセントづつ資産価値が上昇することは常識的なことであるから、このような情況下において、更生会社の不動産を売却するについて、土地取得及び造成の原価を割つて、処分することは、何等かの反射的利益がなければ、右処分行為は、背信的行為となる。

(二) ところが、昭和五五年二月二一日裁判所が為した本件不動産の売却に関する許可においては、売却価格は、土地取得及び造成の原価を金二、一〇〇万円も下回る金三、五〇〇万円となつている。右許可の申立にあたつては、根抵当権の効力について全く利害が反し、かつ、更生債権を早期に支払うことを希望する株式会社栃木相互銀行日光支店長による価格の妥当性に関する上申書が添付されているだけであり、早期に原価を割つてまで不動産を処分しなければならない理由について何等の理由も明らかにされていない。

更に管財人は、仮差押に対する第三者異議及び根抵当権設定登記抹消の請求訴訟を提起等をなして、所有名義人が久保義正の時に為された登記の効力を争うこともしなく、右許可のあつた売却代金の五分の四を、本件不動産に対する仮差押債権者、根抵当権者に弁済している。

(三) 本件不動産の所有名義を久保義正にしたことが通謀虚偽表示によるものであつても、右登記作出については更生会社そのものが関与したのではなく、更生手続開始前の役員が関与したものであつて、この点に関する判決例は確立されていないのであるから、財産を処分して現金を至急に必要とする事情にないことを併せて考慮するなら、裁判所の判断を仰ぐべきである。

また管財人が売却代金をもつて支払つた先は、一方は更生会社の債権者ではなく倒産の原因に関与した役員の債権者であり、他方は更生会社の更生債権者であるから、弁済は、より慎重にされるべきものである。

右の点からするなら管財人の行為は善管注意義務を尽したものといえなく、会社更生法第九八条の四に違背する。〈以下、省略〉

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